西村龍介（にしむらりゅうすけ、1920年2月8日山口県小野田市生まれ～2005年2月21日没）は、太田聴雨や川崎小虎らに日本画を、林武に洋画のデッサンを学び、日本美術学校卒業後に出征、戦後日本画制作から油彩画に転向、1954年第39回二科展に初入選、59年第44回展で二科金賞、68年第53回展で青児賞、71年第56回展で内閣総理大臣賞を受賞した洋画家である。1960年代の渡欧を契機にヨーロッパの古城や聖堂、ヴェネツィア風景を主なモティーフとし、端正な構図と淡い色調による点描で静謐な画風を確立、89年には日本画と洋画の技法を融合した日本的詩情豊かな独自の油彩表現で芸術選奨文部大臣賞を受賞した。

西村龍介「爽日」油彩 10号 1978年作 画集掲載作
本作《爽日》は、洋画家・西村龍介が1978年に制作した油彩画であり、画集にも掲載される代表作のひとつです。画面には、ヨーロッパの古城が静かに佇む風景が描かれ、手前の水面にはその姿が鏡のように映し出されています。清らかな空気が漂い、タイトルの「爽日」が示す通り、晴れ渡る空とやわらかな光に包まれた穏やかな一日の情景が、静謐に表現されています。

西村は、日本画と洋画の両方に通じた作家として知られ、繊細な点描とやわらかな色調を用いて、詩情豊かな風景を描き出すことに長けていました。本作でも、石造りの古城の重厚さと、手前の水辺や並木の柔らかさが見事に調和し、どこか幻想的な空間が構築されています。構図の安定感、自然と建築との調和、そして静けさの中に宿る気品は、西村作品ならではの魅力です。

制作された1978年は、西村がヨーロッパ各地を旅し、風景画家としてのスタイルを深めていった時期にあたります。この時期の彼の作品には、現地の空気や光、時間の流れまでもが丁寧に織り込まれており、本作もまた、その集大成として位置づけられるにふさわしい一枚です。本作は単なる風景描写にとどまらず、見る者の心に静けさと安らぎをもたらす精神性をも備えており、西村龍介の芸術的成熟を象徴する名作といえるでしょう。